「目の前で筋骨隆々のプロレスラーが戦いあう!」
日常ではありえないそんな体験ができるのが、Klamp株式会社が制作している「VRプロレス」です。VRだからこそ表現できる迫力が人気の「VRプロレス」ですが、このようなVRコンテンツがどのようにして制作されているのか気になったことはありませんか?
そこで今回は、動画配信サービス『DMM.com』のVRバラエティ部門の売れ筋ランキングにて1位を獲得したこともある「VRプロレス」シリーズの最新版の制作現場に同行し、VRコンテンツ制作の裏側に密着しました。
VRプロレスと生のプロレスの比較レビューはこちら!
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VRプロレスとは
「VRプロレス」はKlamp株式会社が企画・制作を行っているVRコンテンツです。『DMM.com』にて2017年5月に配信されてからというもの、VR業界内においてもスポーツとVRを掛け合わせたコンテンツとして非常に注目を集めています。
現在第2弾まで公開されており、『DMM.com』ではバラエティVR部門で売れ筋1位になるなどの実績があります。今回制作に同行したのは、1992年に設立された日本のプロレス団体「大日本プロレス」の試合をVRコンテンツ化した「大日本プロレス×VR」です。以下よりVRコンテンツがどのように制作されているのかを見ていきましょう。
撮影当日の様子
今回のVRプロレスは2017年8月12日(土)に後楽園ホールにて行われたプロレス大会の模様を撮影したものになります。VRプロレスのために開催された大会で、全7試合中4試合分の撮影が行われました。当日の時間軸に沿って紹介していきます。
機材準備・打ち合わせ
試合開始は18:30からですが、その3時間前には会場入りし、機材のセッティングや選手との打ち合わせが行われました。機材として使用するのは360度対応のものを含むさまざまなカメラ。迫力を逃さず撮影するために最適な機種が選ばれています。
激しい動きだらけのプロレスの試合を撮影するため、設置場所のチェックや打ち合わせが行われており、試合に出場する選手からも撮影に関する質問が飛び交います。一度試合が始まってしまえば機材のセッティングに割く時間はないことから、この打ち合わせ部分は非常に入念に行われました。
最終的にカメラの設置場所はリングサイド3箇所、手持ちのカメラ、さらには選手の頭部に装着する小型のカメラとなりました。中央のもっとも重要なポジションにはプロ仕様の360度カメラである「Insta360 Pro」が置かれ、リングが全面撮影できるようになっています。
試合開始・撮影
(画像参照元:大日本プロレス)
最初の3試合はVR撮影の行われない通常の試合です。VRの撮影ありきの試合は観客側も初体験の人が多いので、会場を温める意味でもこの3試合が果たした意味は大きかったと思われます。4試合目からはVRコンテンツ用の撮影が始まりました。
リングの3方向に設置されたカメラで撮影を行いつつ、リングサイドにいるスタッフが手持ちのカメラで撮影したり、レフェリーの頭につけられたカメラで撮影が行われたりしています。固定のカメラだけではなく、その場その場で最適な場所から撮影を行うことでプロレスの迫力を余すことなく映像に残すことができます。
また選手もカメラを意識しながら試合を進めている場面が多く見受けられ、見せ場ではカメラに対してアピールする選手や、頭にカメラをつけている時にはカメラをかばいながら戦ったりと、いつもの試合とは少し違うユニークな試合を繰り広げました。ぶつかった衝撃で装着していたカメラが吹き飛んだりするアクシデントもありつつ、全方向から撮影することで試合の迫力を映像に収めることができました。
全試合終了後のアブドーラ・小林選手のマイクパフォーマンスでは、プロレスは映像とともに発展してきた文化であり、VRという新たな映像表現もまたプロレスとともに成長していくと宣言しました。
試合当日の撮影が完了したあとは次の工程に進みます。
実況・解説の録音
プロレス問わずスポーツの映像に欠かすことができないものが、実況や解説の音声です。そのスポーツについて深い知識のある実況者たちが展開をまとめた上で盛り上げることで、さらに迫力あるコンテンツを生むことができます。
もちろんVRプロレスも例外ではありません。このコンテンツは撮影して終わりではなく、映像を編集した上でそこに実況・解説が入って完成となります。音声は後から挿入する形となるため、今回は少し特殊な方法で音声を録音しました。
試合当日の8月12日からおおよそ2週間後の8月29日、都内のスタジオで実況・解説の録音が行われました。方法としては映像を見ながらそれに声をあてていくというものですが、今回はVR映像に声を吹き込む必要があります。
そのため撮影2週間後の録音時には映像の編集が終了しており、すでにVRゴーグルで見ることのできる状態になっていました。実際に製品版と遜色ないコンテンツを、実況者たちはVRゴーグルを装着した状態で体験。そこに音声を入れていきます。
村田晴郎氏(画像左) 大日本プロレス登坂栄児社長(画像右)
大日本プロレス植木嵩行選手
今回VRプロレスの実況・解説役として呼ばれたのは、実況アナウンサー村田晴郎氏、大日本プロレスから登坂栄児社長、植木嵩行選手の3名です。録音での利点を活かし、それぞれがどういった実況を受け持つか役割が当て振られていきます。
全員がVRゴーグルを装着し、同じタイミングで動画を再生。その上で互いに実況を開始します。あまり慣れていないVR映像の実況でも、目の前に試合の様子が広がるという意味では通常の実況と変わりないのかもしれません。流れるように実況・解説が行われていきます。
隣の部屋では同じ映像を流しながら、VRゴーグルやスマートフォンに不調が起きていないか目を光らせています。合計で1時間にもなるVRコンテンツの実況を録音している間、集中し続けています。
機材の準備や撮り直しなどを行い、1時間のコンテンツの音声を録音するために倍以上の時間を費やして録音は終了しました。
VRプロレスに対する反応
実際に今回実況・解説としてVRプロレスの制作に携わった方々(村田晴郎氏、登坂栄児社長、植木嵩行選手)に、VRコンテンツについてのお話を伺いました。
ーー実況・解説を終えられて、今のVRプロレスの感想をお聞かせください。
登坂:
プロレスというのはその場にあった見せ方をするスポーツなんですね。リングでやることもあれば、ステージでやることもあって1方向から見られる時もある。テレビが入流時はもちろんそれを意識します。VRというのはそのキャンバスを広げてもらえた気がします。今後繰り返しやっていくことで、プロレスラーがVRでの表現をもっと研ぎ澄ませていくと思います。
村田:
プロレスラーの超人性がVRだからこそリアルに伝わってきたなと思います。場外乱闘の凄まじさや、凶器攻撃の痛々しさが目の前で繰り広げられていて、あれほどの筋肉量を持った人が空から降ってくるということがどういうことなのか、観客席やテレビで見ているだけじゃ伝わらないことがVRでは伝わりましたね。
ーー植木選手は選手の立場から、通常の試合とVRの試合がどう違うと感じられましたか?
植木:
基本的なことですがカメラがあるということを意識しました。カメラの近くに行って技を出したり、どう写っているのかを意識したりなど、リングの中で自然とアピールしやすい環境が生まれていたかなと感じます。そういった意味では選手間での競い合いが起こっていて、これがいろんなものを巻き込んで広がっていけば非常に良い傾向だと思います。
まとめ
「VR」と聞くと誰もが先進的なイメージを連想しますが、意外にも、VRプロレスの撮影に密着して見えてきたのは非常に泥臭く、手間のかかる工程の数々でした。そうやって生み出されたVRプロレスには、「VRならでは」の演出とこだわりが多く隠されていることも同時に見えてきましたね。
こういったちょっとした手間とこだわりは、VRプロレスが教えてくれたVRコンテンツ制作の少し意外な側面でしたが、こういう裏側も理解していれば、自社でのVR導入を検討される際にも、きっとお役に立つかと思います。
以上、VRプロレスへの密着取材でした。