最近様々な自治体のおもしろCMが話題になっていますが、今から数年前、人気芸人の有吉弘行さんが「おしい!広島県」というインパクト大のCMに出演していたことを覚えている方も多いのでは?平成24年のこのキャンペーンを皮切りに、毎年新たな観光プロモーションを発信し続ける広島県。今は、360度VR技術による「究極のネコ目線の広島紹介コンテンツ」が話題になっています。
様々な仕掛けや企画の背景などを、広島県商工労働局観光課長 大内 貞夫様にお伺いいたしました。
本記事の内容
平成24年から始まった本格的な国内向け観光プロモーション
広島県商工労働局観光課長 大内 貞夫様
ーこの度は取材を受けてくださり、ありがとうございます。まずは「広島県商工労働局観光課」についてご紹介ください。こちらは広島県の公の機関という認識でよろしいでしょうか?
広島県商工労働局観光課は県庁の組織なので、公の機関です。国内や国外向けの観光プロモーションや、観光地の魅力づくり、おもてなしの充実など、観光に関わる様々な業務を行っています。平成24年の「おしい!広島県」から始まった一連のPR活動は国内向けの観光プロモーションになります。
ー昨今様々な面白い取り組みが話題の「広島県の観光プロモーション」についてお聞かせください。
全国の人々に広島を旅先として選んでもらうため平成24年に、広島県出身の有吉弘行さんに御協力いただき「おしい!広島県」というスローガンで観光プロモーションを始めました。「レモンの生産量日本一なのに知らない人が多い」など、全国に誇れる観光資源が豊富にあるのに,知られていないという「おしい」状況を知ってもらい、実際に訪れてもらうことによって「おいしい」に変えていこうという取組でした。
観光プロモーション総合ディレクターとして、今もプロモーションの総括をしていただいている江口カンさん(KOO-KI)に制作していただいたプロモーション映像は、観光映像大賞(観光庁長官賞)をいただきました。
平成26年からは、それまでの全国の自治体では例のないような120ページを超える無料の「広島県究極のガイドブック」を発行して広島の多彩な魅力を発信しています。(現在のスローガンは,「カンパイ!広島県 広島秘境ツアーズ」)これらのプロモーション活動の一環で平成27年に行ったのが、「猫目線」という新たな視点で広島の旅の楽しみ方を紹介するという取組でした。
観光地の魅力を一番知っているのは猫!?
ーそれが今回、お話を聞かせて頂きたい「広島キャットストリートビュー」ですね。なぜこんなに面白い企画が実現したのでしょうか?詳しくお聞かせください。
観光地の魅力を「これまでと少し違った目線で紹介できないか」と考えたんです。路地裏や風景など観光地の隠れた魅力を一番知り尽くしているのは猫なのではないか、それならば猫の目線で観光地を紹介してみては、と、事業パートナー(BBDO J WEST/I&S BBDO)から提案を頂き、江口カンさん(KOO-KI)の監修のもと、この「広島キャットストリートビュー」が出来上がりました。
第一弾の紹介エリアとなった尾道は、歴史ある町並みや海を一望できる景色の良さなどで観光地として人気があるとともに、「猫の細道」などの猫に因んだ観光スポットが多い地域でもあり、「猫」との親和性がとても高かったんです。
ーなるほど。「違った視点からという観点」と「観光地が持つ特色」を活かすことで生まれた企画なのですね。「猫目線」を主役に置くことで、見える世界が変わったのではないでしょうか?
そうですね。猫は塀の上や屋根の上に登ることがよくありますが、このキャットストリートビューも道路の上だけではなく、猫と同様に塀の上や屋根の上に登って普段では見ることができない景色を楽しんでいただけるようになっています。
キャットストリートビューではサイト上で観光スポットなどを紹介してくれる案内猫が登場するのですが、その猫を路地裏観光課長に任命するなど、実際に現地に出向くことでサイト内で紹介している猫達に会えるという楽しみ方もあります。また、サイト内に出てくる猫を見つけるとカウントされる「キャットカウンター」という機能を付けていて、猫を探しながらサイト上で観光スポットやお店などの情報も確認することもできますよ。(尾道編:95匹,竹原編:27匹)
登場する猫たちはみんな「そこに住んでいる」リアルな猫
ーたくさん出てくる猫は、撮影用に集めたのでしょうか?
キャットストリートビューに出てくるのはそのエリアにいる猫のみで、撮影用に集めた猫はいません。第一弾で撮影した尾道は、「猫の細道」や「招き猫美術館」、ネコをモチーフにしたグッズのお店など、さまざまな観光スポットがあり、「猫の町」とも呼ばれています。
ー「尾道+猫目線」が決まった後、360度コンテンツを導入に至った理由は何でしょうか?
尾道の奥深い魅力をインターネット上で体験していただくには、全方向を見渡せることが重要と考えました。当時は猫に関連した写真集や映画、東京では猫カフェが人気を集め始めるなど、猫ブーム到来とも言える雰囲気でした。そこで「猫の町」とも呼ばれる尾道で猫のコンテンツを作るのであれば、視線や視点なども含め徹底的にこだわりたいという思いもあり、この「猫目線のキャットストリートビュー」が生まれました。
撮影の一番の苦労は、猫目線は高さ20センチ!
ー導入に対する障害(反対意見・予算など)と、撮影時の苦労話があればお聞かせください。
撮影は専門の事業者にお願いしたのですが、キャットストリートビューが切れ目のない美しい映像になるよう,尾道編では全長約3.3キロメートルもの距離を約20センチの高さで約2メートルごとに360度撮影していくのは非常に大変だったと思います。
ーあらためて、猫目線でのキャットストリートビューだからこそできたことはどんな点でしょうか?
周りの景色を360度見渡せて探索もできるので、観光地を歩いている気分になってもらえるということです。さらに猫目線にすることで、普段では見ることができない景色を楽しんでいただけるようになっています。
ー企画から公開までのおおよそのスケジュールはどのような感じでしたか?
4月から企画の具体を検討し、7月から実際に撮影を行いました。9月1日にサイト上で公開するまで5カ月以上を要しています。
サイトアクセスは一週間で132万PV!国内外の400以上の媒体での紹介
ー導入してみての効果・反応は如何でしたか?
尾道のキャットストリートビュー公開から1週間で、観光プロモーションサイトのアクセス数は132万ページビューを超え大きな反響がありました。また400を超える国内外のメディアで取り上げられ、アジアを代表とする広告賞のひとつ「The APPIES 2016」でゴールドを受賞するなどの評価も頂いています。
ーそれでは最後に、「360度(動画・静止画)」に対する感想をお教えください。
360度コンテンツは「観光地を歩いている気分になっていただける」という利点があり、活用次第で観光地の魅力がより深まると思います。また平面のマップよりも、360度コンテンツのほうが現地の雰囲気が分かってもらいやすいと思っています。今回のキャットストリートビューでは、観光地の風景を猫目線で360度観ることができ、その場の雰囲気がより分かりやすく紹介されていると思います。
パソコンやスマホでも見ることができるので、旅行の前に見ておきたいという人や旅の途中に活用するなど、楽しみ方は色々です。これをきっかけに広島の観光地の魅力を再発見してもらえればと思います。
【目線は地面から20センチ! 広島の路地裏を猫気分で散策してみよう】
まとめ
「路地や観光地の裏側まで一番知っているのは、猫なんじゃないか」という一言から実現したこの猫プロジェクト。国内外で400以上もの媒体で紹介されたのは、「言葉が必要なかったからだと思う」と仰っていました。確かに、360度コンテンツの魅力は見れば分かることですが、案内人が猫になることでますます言葉が不要に.国内向けのプロモーションが世界へ大きく羽ばたいて行くことになりました。
前例などにこだわらない広島県庁の方々の遊び心が、大きく世界に羽ばたいて行ったこの企画。他の自治体の海外向けプロモーションにも大きな参考となるのではないでしょうか。大変面白いお話を、ありがとうございました!