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    Categories: VRビジネスVR企画特集

【STORY × フジテレビ】「見る報道から、体験する報道へ」

株式会社フジテレビジョンは日本を代表するテレビ放送事業の企業です。1957年の創業時から今まで、日本のテレビ放送を支えてきました。今回はそのフジテレビが取り組んでいるVR事業に関して、始めるに至ったきっかけや背景、また今後の展望についてお聞きしてきました。

ーー御社のVR事業の内容を教えていただけますか?

株式会社フジテレビジョン種田様(以下種田):
VR/ARなどの先端技術に加えて、もともと行っているCGやマッピングなどのいろんなものを全部組み合わせて「総合デジタルプロデュース」と銘打った事業を行っています。BtoBを中心にやりながら、トータルで仕事のサイズ感を上げることを目的にしています。BtoBの方はアミューズメントパークや、企業だったりを相手に。一方BtoCの方は市場の成熟がまだ未知数なところがあり、市場が広がるような努力をしなければと思っています。

弊社はプラットフォームとして動画配信サービスの「FOD VR」を提供しており、VRの無料展開も有料展開もできるようになっていますが、外のいろんなプラットフォームの皆さんにも、弊社がどんどん提供して、「Fuji VR」という形できちんとブランディングしながらどこまでも出していくと。垣根なくVRが全体に広がるようにしたいと考えていて、ベンチャー含めて制作会社やいろんな得意分野のある会社と一緒に連携してこの業界を作っていきたいなと思っています。

ーー御社がVRを始めたきっかけはなんなのでしょうか?

種田:
きっかけは2016年がVR元年だからと言われたのもありますが、テレビ局として、ある種地上波のパワーが相対的にどうしても下がっていく中、やはり収入の多様化っていうのは我々も考えていかないといけないところで。先行者メリットが大きいと思われる新しいデジタルVRもやっていくべきだろうという判断です。フジテレビは何でも先にやっていく会社ですので、そういう流れもあってVR/ARに取り組み始めました。これから更に「MR」、「5G」の領域にも入っていく事になります。

フジテレビはこんなこともやるんだと認知してもらい始めましたので、外から色々とお声がけいただくようになりました。ただ収入という意味ではまだまだ十分とは言えませんし、やはりBtoBというのは人数の限界がくるので、BtoCが育ってこないといけないと思います。

株式会社フジテレビジョン清水様(以下清水):
VRの「事業部」として立ち上げていて、VR開発部でも、VR研究部でもないんですよね。報道が本当にすぐ収入に結びつくかというのは別として、部内には報道の人間やCGの人間がいたり、ドラマの人間がいたり、本当にテレビ局が持っている英知が結集している。2020年に通信規格として5Gが来ること自体は見えているので、そこに向けてきちんと事業という観点で考えようと部がスタートしているんですね。

ーーVR事業に関してはどれくらいの人数規模でやられていて、その役割構成がどうなっているのかを教えていただけますか?

種田:
元々はCGをやってる部隊がベースにあるので、そこだけで大体2、30人います。それにプラスして、VR事業部ができた時に集まってきたのが7、8人。そういう現場構成ですね。内訳としては9、10人くらいがコンテンツを制作します。4人くらいがクリエイティブ寄りにディレクションもできる元々CGを作っていたクリエイターです。あとの人間はプロデュースですね。プロデュースの人間は企画を作って、外の制作会社さんとかのリソースを集めることによって作るパターン、それからもともとCG作ってた4人は自分の仲間を使いながら作ることができるという、そういう人数構成ですね。トータルして社員としては10人くらい、あとはスタッフが2、30人くらいの規模です。

ーーフジテレビの番組以外の納品先のクライアントはどういったところがあるんでしょうか?

種田:
社内のために制作するということもありますが、基本的には社外に向けて作っています。外部の方への問題解決などのために、コンテンツを作り、先方の事情にあったパッケージをしてコンテンツを出しています。イベント的なものであっても、継続するものであっても、とにかく海外を含めた企業さんに対して提供しています。今は中国や東南アジアなどのその辺りも需要を喚起しているところです。

ーーその中でも特に注力している業種はありますか?

種田:
特に力を入れているのは業種というよりも自治体ですね。観光だけではなく、街全体がデジタル化したい、町のランドマークのものを作って町全体が新しくなりたいというご希望を持っているところがあるので、町全体の艶を出していって、そこで何かを起こすということ。そこで起こっている何かをVR/ARで注目しながら外からも見れるようにしてあげる。それから我々の強みは、面白いものを我々が作れば、フジテレビや系列が取材してさらに面白くできます。やっぱりその流れというのがうちの強いところだと思うんですよね。その流れをセールスに組み込んでいるわけではありませんが、実際のところ面白いものを作れば否応なく取材は行われるのでその流れは実質できるかなという。その他、エンターテイメントパーク、各企業さんのプロモーション、パビリオン建設、イベント制作等のお手伝いが続く感じでしょうか。

ーーVRはスポーツなどのジャンルでも注目されていますが、どのようにお考えでしょうか?

清水:
大相撲のトーナメントをVRで配信してみたり、東京マラソンのコースを実際にVRで撮って、これから走る方のコースガイドとしてパッケージを売り出したりしています。今後は「VRの中継権を持っています」という状況で、どこかのプラットフォームと契約してライブ配信を請け負うなんてこともできます。本当にいろんな可能性が広がっているなという気がします。

ーーVRコンテンツだけでなく、プラットフォーム開拓にも幅広く携わられているんですね。

清水:
そうですね。この間、北朝鮮の万景峰号の中をフジテレビの取材クルーが単独撮影できる機会があったのですが、普通の撮影もなかなかできない場所なので、どうせだったらVRで撮ってみようと撮影しました。それから小笠原諸島の“新しい島”が一時大きな話題となりましたが、環境省と協力して西之島の噴火でできた新しい陸地部分の人類初上陸シーンをVRで撮影しました。こういった普段行けないところを報道の記者やカメラマンが撮影して、それをVRで見てもらうということはビジネスになりうると思います。

株式会社フジテレビジョン北野様(以下北野):
それでいうと銀座から日本橋で行われたリオ五輪・パラの凱旋パレードを撮影するVRの代表カメラとして、当日撮影させてもらったりもしました。昼に撮影したものをすぐ編集所に入れて、夜のオンエアで使えるように各局に配信したところ、フジテレビだけではなく、NHKのニュースでも素材を紹介してくれました。。当時VR事業部のあったテレビ局がフジテレビだけだったこともあるのですが、非常に誇らしかったですし、初めての挑戦という意味でもすごく意義のあるものでした。

オンエアでは、スタジオでゴーグルを着けたアナウンサーにVRを実際に体験してもらいつつ、アナウンサーにどう見えているのかをモニターに出力して映すんです。そうすることでVRの認知にもつながると思うのですが、報道素材として価値のあるものを360度で撮って後世に残すという意味と同時に、オンエアで展開することによってVR自体の普及を担うという、放送局ならではの2つの使命がそこにはあると思います。

ーーVRコンテンツをユーザーに届けるプラットフォーム選定は、どのようにしているのでしょうか?

北野:
コンテンツの目的によって、ケースバイケースで判断します。事業との兼ね合いはもちろんのことですが、大相撲トーナメントの時には、当時VRの普及にとって価値のある配信だと思ったので、FOD VRで配信するのではなく、YouTubeでのライブ配信を選択しています。

清水:
実際に見られているのはWebに埋め込んだVRが多いんですが、それとヘッドマウントディスプレイをつけて見るものとは全く別物なんですよね。東日本大震災の被災地にVRカメラを持って取材へ行ったときも、「16mの津波が来た」という映像を表現するのに、今までのテレビでは画面に「16m」とテロップと矢印を書くぐらいしかできなかったのが、360度映像の場合は実際に津波が到達した16mの位置にCGで津波水を再現して、「あそこまで来ました」とリポートすれば「自分の首の角度や実際に見える距離」で津波の高さを伝えられる。でも、この表現ではヘッドマウントディスプレイをつけてもらわないと体験できません。スマートフォンやPCの画面上でこの表現を見ても、全くイメージに追いつかない。実際に見てもらうユーザー数だけを考えるなら、スマートフォンやPCでのWebVRで見せた方がいいんですが、この平面だけでの表現で終わらせてしまえば、今までの映像表現の延長でしかありません。それだったら僕らは一歩先に進んで、ヘッドマウントディスプレイで空間ごと伝える方法を研究しようというのが、報道コンテンツに限らずいろんなところで言っていることになります。

ーー報道は360度コンテンツとすごく相性が良く、社会的な価値が高いと思っています。映像や写真ではなかなか伝えきれないような、その場所の臨場感などの現実が伝えるものとして360度は非常に有効であると考えます。

清水:
本当にそうなんですよね。アダルトやゲームコンテンツはVRが成長するための入口としてはいいと思いますが、今後は報道コンテンツが増えてくると思います。機材が多くなってVRを撮影しやすくなった分、同じものを撮っても違いが出てくるようになっているんですよね。例えば熊本の地震をVRで撮影したとしても、「撮っただけで終わり。あとはユーザーが好きな方向を眺めて」というものが多いんです。しかし、報道がきちんと取材したものなら「熊本城がこのように石垣が崩れる被害を受けています。ただ、表面の石が崩落しただけの場所と、内部の土ごと崩れている場所があります。表面の石だけ崩れている石垣では、一緒に木が崩落しているのが見えますか?築城から400年以上経ち、木の根っこが伸びて石垣が不安定になっていたと考えられます。一方、土ごと崩れた石垣なんですが、そもそも地盤が弱く、そのまま石垣を戻しても再び地震で壊れる恐れがあります」などと説明を受ければ、同じ石垣だけどまずはこっちを見て、次にこっちを見ればいいんだ、というのがわかります。

テレビ報道の批判につきものなのは、事実を一部分だけ無理に切り取って伝えてるんじゃないか、他の部分の石垣は全然壊れていないのに必要以上に壊れているように見せているんじゃないかというものです。でもVRで体験してもらえば、後ろを振り返ることもできる。360度でなんの嘘も包み隠さず出していくという姿勢を見せるだけでも、テレビ報道の信頼性が上がっていくと思いますね。

ーー報道というところに関して、視聴率を取るということと、全て見せてしまうということがバッティングすることもあるとは思うのですが、テレビ局としてはVRで全てを見せられたほうが良いのでしょうか?

清水:
そこは役割分担ですね。今、私が運営しているネットメディア「ホウドウキョク」では、一つの情報を発信するのにもLIVE中継したり、短い動画で配信したり、テキスト中継を行ったりしています。見ているデバイスや場所、年代など、いろんなニーズに応えられるように役割を変えて発信しているんです。そんな中で、「テレビで見た映像を、VRでその場にいる感覚で見てみたい」というニーズも必ずあるはずなんですね。でも、「VRさえ見られればテレビの映像は見なくていい」とはならない。テレビは視聴者が最適な形で映像を見られるように編集や演出をしているので当然です。テレビとVRは違う表現なので、どんどん住み分けで、相乗効果を出していければなと。

通信技術が発達して平面映像やテキストをどんどん送れるようになりましたが、今後5Gになったときには平面を送るところから空間を送るように世界が変わっていくんですよね。そうなったときに「テレビは平面で送る伝え方しかできない」というところで終わってしまえば、多分僕らの発展はもうなくなります。この先、たとえば、サッカー中継で実際に観客席にいるかのようにVRで見たり、平面のテレビを見ていてもARで机の上に現れたフィールド上の選手全体の動きを一緒に見たり、そういう世界がきっと待っています。それがくるのはわかりきっているので、テレビ局は平面にこだわっていてはいけません。どうせだったら平面も空間も、全部届けないと面白くない、この世界は変わらない、というのがVR事業部全体で考えていることですね。

ーー今後VRはどのように発展していくと思いますか?

北野:
VRの技術は、他の星にロボットを送り込んで、地球にいながら操作するような、宇宙開発の歴史とともにあったもので、それ自体は新しいものではないと思っています。50年前に同じ体験をするのに一億円かかっていたものが、スマートフォンによって十万円もかからずにできるようになったというのが今のブームの本質だと捉えていますが、人の生活になくてはならないものになるためには、やはりロボティクスを含めた、他の技術と結びついて進化していく必要があると感じています。エンターテイメントでは視聴覚以外の感覚と結びつけることでもっと面白いことができると思いますが、医療、不動産、製造業、教育など、あらゆる業界から新しいものが生まれてくる可能性があり、相互で作用しながら、発展していくのではないでしょうか。

清水:
よく言われるのは、今のヘッドマウントディスプレイっていうのは昔の肩がけ携帯電話みたいなもので、こんなものあったよねと懐かしがられる存在になると思います。まずメガネ型くらいに使いやすくなって、一番には仕事で使われるケースが増えるんじゃないでしょうか。VRでできるところと、現実世界でしかできないところを切り分けていくのかなと。人が入ることのできない危険な場所でロボットを動かすためにVRで訓練するといった例も、今はすごく簡易版ですが、すでにあります。そういった仕事で使うケースはどんどん増えていて、そうして仕事だけではもったいないから娯楽で使ったり、報道の面で使ったりと、そういう使われ方をして、個人に広がっていくんじゃないかなと僕自身は思います。

ーーこれからいろんな使い方が出てきたり、新しい発見もまだまだ出てきそうですね。

北野:
そうですね。新しいことに挑戦することが、フジテレビのアイデンティティでもあると思うので、たくさんの仲間や協力してくれる方々を巻き込みながら、挑戦を続けたいと思います。その先に、テレビ局としてできることをやり切って、エンターテイメントやメディアの未来に貢献することができれば、とても幸せなことだと思います。

ー貴重なお話を誠にありがとうございましたー

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編集部 :