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【STORY × ソリッドレイ研究所】「30年間VR事業を専門で行ってきた企業の圧倒的な強みとは」

株式会社ソリッドレイ研究所は1987年2月に設立し、実に30年もの間VRシステムを開発し提供し続けている企業です。納入先は公的機関から大学、建築やエネルギーに至るまで多岐に渡り、様々なシステムや製品を提供しています。今回は同社のVRに対する試みや、なぜ30年前に事業としてVRを選択したのかなどを、株式会社ソリッドレイ研究所 代表取締役 神部勝之 様に伺ってきました。

株式会社ソリッドレイ研究所 神部様(以下神部):
VRの定義をご存知ですか?「バーチャル」という英語の意味は簡単に言うと、本物ではないが、本物と同じ、本質を持っているという意味なんですね。ですが日本語にはそれに該当する単語がないので、バーチャルを「仮想」と訳してしまった。やっぱり仮想という名前がつくと、嘘っぽいとか、本物ではないとかそういう意味合いが強いですよね。でも本来の意味としては本物なんですね。例えばバーチャルマネーというものがあると思うんですが、(Suicaを取り出し)これはお金ではない。でもコンビニへ行けば、本質的にお金のように使えるわけです。これをバーチャルというわけです。

だから世の中が勘違いしていることは、バーチャルというのは本物ではないというイメージだけど、本物なんです。なので、まず原点はそこから出発するわけですね。夢物語とか、仮想的なもの、嘘のものだという概念ではないのが最初です。

例えば、アフリカのジャングルか何かにカメラを置いて、あたかもそこにいるようにする技術というのは、テレイグジスタンスと呼ばれる技術です。そこにはいないけど、その場所にいるのと同じ体験ができるという意味の単語。360度とかいうのはそっち側かなと思いますね。

うちで言っているバーチャルリアリティというシステムの定義は、コンピュータの中に作られたVR空間、その空間に人が入り込んで何らかのアクションを起こすというものです。それをどうやって応用するかというのがユーザーのアイデア。例えばゲーム・教育に使う、シミュレーションに使う、販売促進に使うといったいろんな方法がありますが、大元の技術はバーチャルリアリティであるということです。

ーー実写で撮影されているものは軒並みテレイグジスタンスということでしょうか?

神部:
ただ録画してあるものはテレイグジスタンスではないです。今リアルタイムで見ていないといけないので、右を向いたら右、左を向いたら左に現地のカメラが向くようになっていないと、テレイグジスタンスとは言えません。

最近は世の中の傾向として360度カメラで撮ってHMDで見るのはバーチャルリアリティだと言っている傾向があるので、それはそれで定義が違うだけなのかなとは思いますけどね。ただ、録画してあると、行動アクションに追いつけません。例えば、しゃがもうとしても録画しているとしゃがめない。つまり録画では自分の行動、しゃがむというアクションに応えられないという問題を抱えますよね。

ーーそうですね。左右を見ることは連動するかもしれませんが、それ以上のアクションには対応できません。

神部:
しゃがむとか、何かを持ち上げるとかができませんよね。だから本物のバーチャルリアリティというのは、やっぱり作られたVR空間の中に人間が入り込んでその中でアクションを起こす、アクションを起こした時にそれに応えられないといけない。

ーー改めて、御社が展開されている事業内容についてお聞かせいただけますでしょうか?

神部:
主に行っているのはコンピューターの中に作られる世界を運用するものなので、基本はコンピュータグラフィックスですね。それをクライアントに対して何に使いたいですか?どういうことに使いたいですか?ということを聞いて、それに応えるという事業形態ですね。それぞれ用途は違いますが弊社の技術を使ってクライアントの要望を叶えています。

ーーターゲット層はどのようなところを想定されていますか?

神部:
商品を販売するときのセオリーとしては、業種や狙いを絞るセグメンテーションを行うものだと思いますが、弊社ではそういったことはしていません。業種を絞るのではなく、オリジナル技術を元に全業種を対象にする、技術オリエンテッドという販売戦略を展開しています。ですからさまざまな業種を対象にしており、メーカー、医療関係、エンターテイメント、官公庁などにも納入しています。

ーー御社の強みを教えてください。

神部:
競合と比べて圧倒的に優れているのは、一つは実績ですね。30年間VRに携わっているという実績は大きいです。もちろん、何が難しくてどこを注意しなきゃいけないかということも全部わかっています。さらにこの30年間のクライアントのデータベースを持っていて、日本のVRに関係している人の全部のデータがあるというのも強みです。情報を発信するときにはそこに対してダイレクトメールを打てば良いのです。実際に案件依頼の6割から7割がリピートオーダー、一度取引されたクライアント。新規のクライアントの中にもユーザ紹介の方が多いですしね。

ーーそれほどのリピーターと紹介案件があるのは確かに圧倒的ですね。

神部:
もう一つ強みとして言えるのは、VRを専門でやっているということですね。例えば他の企業でVRをやると言っても、社員の何人かが選ばれてそのセクションに入るということが多いです。全社をあげてやっているわけではないんですね。私たちは100%全員がVRをやっています。バーチャルリアリティというのは、いろいろな技術の要素技術の寄せ集めなんです。コンピュータグラフィックス、プロジェクタ、それからコンテンツ制作。グローブや三次元センサーを使ったりといろんな機器を使います。つまりそこの技術も持っていないといけなくて、私たちはそれらを全て社内で持っています。

ーー社内で全て完成されているということですね。

神部:
そうですね、コンテンツを作るセクション、ソフトウェアを作るセクション、デバイスを作るセクションという風に社内でセクションを完備しています。ですからそういう体制に持っていくと最低でも社員が約30人は必要になります。私たちは30人の社員をかけて、ソフト開発、ハード開発、コンテンツ制作、納入設置も全て自社で行っている日本で唯一の会社だという自負があります。

ーー海外企業の技術も取り入れているのでしょうか?

神部:
もちろんやっていますよ。海外企業の三次元センサーやグローブを取り入れたりしています。そういったものを組み合わせて、会社の中で研究分析をして最適に使っています。

ーー御社は数多くの製品を制作されていると思うのですが、それぞれのプロジェクトを立ち上げる際にどのようなきっかけが多いですか?

神部:
やっぱり面白いかどうかという、遊びの部分じゃないでしょうか。それは面白いか、自分たちが使いたいかどうかという部分は大事にしています。新しい技術が出てきたら、それを取り入れて、違うものに組み立ててみたりして。そういった担当がいるわけではなく、全員で試してみます。

ーーそこから上がってきたアイデアを元に、製品の構想を生んでいるんですね。どれくらいのペースで新しい製品をリリースされていますか?

神部:
1年に1個か2個くらいですかね。

ーー最初にVR業界に入られたきっかけをお教えいただけますか?

神部:
ちょうど今から30年前の1987年2月に、立体映像の専門の会社としてソリッドレイを立ち上げた時には私はVRという言葉を知りませんでした。そもそも、なぜ立体映像を始めようとしたのか。1987年当時、コンピュータの発達によって三次元処理が飛躍的に進歩しました。ただそれを映し出すためにはコンピュータのモニターを使っていたので、結局二次元でしか見ることができなかったんです。三次元の情報を作っているのに、見る時には二次元になっている。つまり情報が減っているということですよね。きっとこれで困っている人がいるはずだと考えたことが、立体映像の会社を立ち上げた最初の出発点です。

立ち上げてすぐに自動車の研究所から注文をもらいました。雑誌の記事にもなって、新聞社にも取り上げてもらいました。そうするとたくさん問い合わせがきたので、やはり三次元データを立体で見るというニーズはあるんだなと。


(当時の新聞記事)

ーー最初は立体映像のニーズに応える事業を行われていたんですね。

神部:
そうやって順調にいっていた時に、VRへの進化が生まれました。クライアントに立体映像を見せることができるようになってくると、次はそれに触れてみたいという要求が生まれてきたんです。私たちも非常に興味を持って、アメリカのサイバーグローブというベンチャーと手を組みました。彼らの提供している専用のグローブを着けることで、立体映像に対してアクションが起こせるようになり、自然とバーチャルリアリティの世界に足を踏み入れていたんです。この時点で会社を立ち上げてから3年目くらいですね。すぐにVRへ移行していました。

ーーそれ以来今までずっとVRに携わってこられたということですか?

神部:
そうですね。もちろんベースは3D・立体映像の知識があってのものです。ヘッドマウントディスプレイも立体映像ですよね。

ーーVRに30年間携わってきた立場から見て、今までのVR市場をどのように捉えてらっしゃいますか?

神部:
1990年から1999年までの10年間はVRバブルの時代でした。VRのGW(グラフィックワークステーション)に最低5000万円かかる時代です。VRでシステムを組むときはそれしかなかったので、1億2億3億の単位でVRが売れる。まさしくバブルですよね。その頃は研究ベースで、実務で使おうということは一切ありませんでした。でも1999年にバブルは崩壊したんですよね。なぜかというと、5000万円のGWと、5万円のグラフィックボードが同じ性能になったからです。5000万円の機材を買う人はいなくなり、全部PCベースになりました。参入していた企業も手を引いてしまいました。そうするとコストが下がったので、2000年からは実務で使う波がきました。そして今に至ります。だから今は研究ベースではなく、実務ベースの話の方が多いんです。研究ベースよりも実務ベースの方がはるかに大きいマーケットになりました。

ーー2000年を境にVRの波が変わったのですね。逆に研究ベースの話というのがあるとしたら今はどういう案件がありますか?

神部:
最近ではネズミの実験用のVRを作ってくれという案件がありましたね。ネズミって迷路の中に入れると、どんどん奥に入っていきますよね。あれと同じことをバーチャルでやらせようという試みです。研究用のVRとしてものすごく意味があることです。あと猿用のと、魚用のも作りましたね。

ーー魚ですか。それは水槽の外に画面があるということですか?

神部:
その通りです。取り組みとしても面白いですし、VRを活用して研究は一歩も二歩も進んだと思います。

ーー非常に興味深いです。それでは最後にお聞きしたいのですが、今後VRでどのように展開していこうと考えてらっしゃいますか?

神部:
今後のVRを考える上で重要なキーワードがいくつかあると思っています。まず今はVRブームですが、勝者成功事例が未だに出ていません。VRで爆発的な売上を上げたという企業はまだないからです。これがいつ出てくるかというのが一点。

もう一つのキーワードは、2010年頃に3Dブームというのがあって、当時は家電量販店には絶対にどこでも3Dテレビが置いてあった。でも全然売れることがなく、今ではどこにもないし、製造もしていません。VRもこれと同じ道をたどるんじゃないかと言っている人もいます。これも一つのキーワードですね。

今後VRが3Dブームの時のような一過性のブームで終わらないためには、成功事例が出てくる必要があります。今のVRといえばみんなエンターテイメントばかりを想像していますが、それだとなかなか難しいというのが本音です。私たちの場合は、エンターテインメント以外の用途も企業に提供しています。VR用途はエンターテインメントだけではないことをみんながまだ知らないと感じています。

私たちが今後取り組んでいく方向性は、複数人で同時に、同じ空間に入り込むという形のVRが主流になると見込んで、そのための商品を開発しているというところですね。

ー神部様、貴重なお話を誠にありがとうございましたー

株式会社ソリッドレイ研究所
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編集部 :