【教育×VR】教科書に並んだ10,000文字を、たった一度の体験が凌駕する

筆者:手島 理志

様々な業界・市場においてVRはプロモーションや問題解決のためのツールとして幅広く使われており、人々の注目度の高さをうかがい知ることができます。VRがもたらすのは「可能性」であり、今までの当たり前を変えてしまう力を持っています。今回は教育の課題に対してVRで解決に取り組んだ際の効果や結果を紹介します。

教育現場の抱える課題

今の教育現場が抱えている課題は、子どもの「学習意欲の低下」と「学習効率の低さ」と言われています(参考:文部科学省の発表)。その課題にはいったいどのような背景があるのでしょうか。そこに至る背景・要因の一つとして考えられる点を記載します。
 

学習意欲の低下

子どもの学習意欲の低下として考えられる要因の一つに、受動的になってしまう授業が子どもの学習意欲を低めているのではないかという考えがあります。それは授業の大半が教師による講義形式だからと言われています。カリキュラムや時間の制約上、教師が講義以外の形式での授業を持つことも難しく、子供が受動的になってしまいなかなか好奇心が芽生えないからだそう。
 
その部分の改善は非常に重要視されており、子どもたちの興味関心を生み、積極性を持たせるという取り組みが数々行われています。その歴史の中では、かつて教育委員会から「指導内容や指導形態の創意工夫や多様な指導方法を通して子どもの個性や能力に応じた指導を徹底することが重要である。」と要項に明記された市もあるほどです。
 

学習効率の低下

また学習効率の低下も課題点です。これもまた現状の教育環境が原因とされることが多く、発信された情報を受け取る受動的な学習では知識の定着率が低いというデータも出ています。下の図をご覧ください。
 
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教育現場において長く伝わっている「ラーニング・ピラミッド」という上の図のような考え方があります。書かれている数字の根拠に乏しいという批判もあるものの、インプットだけではなくアウトプットも兼ねることで知識が定着するという部分においては、一概に無意味な考え方だとは言えません。
 
受動的な教育だけでは学習のための意欲が高まらないことに加え、知識の定着率も高くならないことが謳われています。
 

VRを用いた教育の事例

 
上記のように「学習意欲の低下」と「学習効率の低下」の二点の課題の原因の一つを、講義形式の受動的な教育だと考えた場合、それらを解決するためには子どもたちが主体的に学習する必要があります。そのために講義形式のテキストベースの教育だけではなく、創意工夫を凝らしたインタラクティブな学習形態が求められています。
 
ここからはその解決案の一つとして「VR」を用いた際の事例や効果をご紹介します。
 
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こちらに掲載する実験は、2016年11月に中国にて実際に行われたVRを教育に用いたものです。上記の教育現場の問題提起でも述べたのと同じように、中国の多くの生徒は教師から一方的に伝えられる授業に興味を持てずにおり、学習意欲は決して高いものではありませんでした。
 
今回そういった生徒を対象に実験を行うために、通常の授業を受けた生徒と、VRでの授業を行った生徒の2つのグループに分け、さらにそれらのグループを、授業後にテストを受けるグループと授業の二週間後にテストを受けるグループに分け、合計で4つのグループに分けました。4つのグループのそれぞれ知識の定着率、理解度にどのような違いが生まれるかを測った実験になります。
 
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VRIT:VRの授業を受けた直後にテストを受けたグループ
CIT:通常の授業を受けた直後にテストを受けたグループ
VRRT:VRの授業を受けた2週間後にテストを受けたグループ
CRT:通常の授業を受けた2週間後にテストを受けたグループ

 
もともとの学力は均等になるように分けられており、純粋に実験のグループによってのみ差が生まれる実験となっていました。実験の結果は以下のようになっています。
 
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授業後すぐにテストを受けた生徒の結果は、VRでの授業を受けたグループの方が通常の授業を受けたグループよりも27.4%もの高得点を出したという結果になっています。VRを用いて主体性を持って学習したグループの方が理解度がより高いことがわかります。
 
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さらにこちらの二週間後にテストを受けたそれぞれのグループの得点を比較した結果では、VRでの授業を受けたグループの方が通常の授業を受けたグループよりも32.4%も高い得点をとっています。VRを使って授業内容を体験として学習したグループは、通常の授業を受けたグループよりも知識の定着率が高いということがわかる結果です。
 
人が一時間かけて話す文字数は10,000字と言われていますが、VRを使ってインタラクティブな学習を行うたった一度の体験が、それをはるかに凌駕してしまったことがわかります。
 
参考資料:A Case Study – The Impact of VR on Academic Performance
 

まとめ

「百聞は一見に如かず」という言葉がありますが、まさしく「百見は一体験に如かず」といったところで、一度の体験が従来の授業を超えた結果を生み出した事例のご紹介でした。主体性を持たせて能動的に学習に取り組ませるために必要なのは、インタラクティブなコミュニケーションが可能な方法での授業なのかもしれません。
 
今後VRでの学習は、どういった形がより効果的なのかも研究が進んでいくことでしょう。いつか教科書の役割をVRが果たす日が来るのかもしれません。

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