特別企画「ITベンチャーおしゃれオフィス20選」、今回で第11回となりました。今回お邪魔したのは「株式会社ユーザベース」です。2008年4月創業の企業で、看板となるサービスとしては「SPEEDA(スピーダ)」と「NewsPicks(ニューズピックス)」が挙げられます。
SPEEDAは企業・業界分析に携わるビジネスパーソンに向けた、オンライン情報サービス。世界180カ国の企業の財務データ、株価データや、550以上の業界それぞれについて動向を伝えるデータなどを蓄積しており、ユーザーはWeb検索のような簡単な操作で必要な情報を取り出せるようになっているとのこと。
もう1つ、同社が力を入れている事業がソーシャル経済ニュースである「NewsPicks」。2013年の発足当初から、国内外の有力メディアの協力を得て、90以上のメディアの記事をワンストップで読めるニュースサービスを提供しています。2014年2月には有料購読オプションの提供を始め、同年9月には、NewsPicks編集部オリジナルのコンテンツを発信し始めました。
ユーザベースは、国内だけでなくシンガポール、上海、香港にも拠点を置き、世界展開もしています。今回は、ユーザベースの人事マネージャーを務める村樫祐美氏に取材することができました。今回は、個人の「働き方」について面白い話を聞くことができました。
株式会社ユーザベース 人事マネージャー 村樫祐美氏
本記事の内容
企業と個人に向けてビジネスに役立つ情報を
――ユーザベースさんは、ビジネスに役立つ情報を提供しているというイメージがありますが、現在手がけている事業について簡単に説明していただけないでしょうか?
村樫祐美氏(以下:村樫):現在、私たちは2つのサービスを提供しています。企業向けの「SPEEDA」と、個人向けの「NewsPicks」です。SPEEDAは業界分析、企業分析に役立つオンライン情報サービスです。世界180か国、300万社以上の企業情報を保有しており、それぞれの企業の株価や財務データなどの情報を簡単に調べることができます。この情報量はアジアでは最大級となります。
また、SPEEDAに必要な業界情報を分析するアナリストが社内にいます。彼らは、550以上の業界について、地域別にレポートを発行しています。
SPEEDAの特長は膨大なデータ量だけではありません。簡単な操作で目的の情報を取得し、分析までできるという特長もあります。同様のコンテンツを格納した情報サービスはほかにもありますが、シンプルに直感的に使えるサービスはSPEEDAが登場するまでありませんでした。グーグルのWeb検索のように簡単な操作で目的の情報にたどり着けるサービスとして市場に登場したのです。
NewsPicksは2013年にサービス提供を始めたソーシャル経済ニュースです。当初は国内の有力メディアの協力を得て、それぞれのメディアから選び抜いたニュースを配信する「キュレーション・メディア」でした。
当時、Webの世界にはほかにもキュレーション・メディアを標榜するメディアはありましたが、そのほとんどがコンピュータ・アルゴリズムでニュースを選び出していました。一方、NewsPicksではアルゴリズムだけではなく、人間もニュースの選別役(ピッカー)となっていました。これは、ほかにはない試みだったと記憶しております。
また、記事に対して各界の著名人を含むビジネスパーソンがコメントをできるようにしています。各ユーザーのニュースに対する理解や視点などを共有することで、ニュースに対する理解を深めてもらおうという意図があります。その後、私たちにしか提供できない情報を伝えるべく、NewsPicks編集部を立ち上げ、独自の記事配信を始めました。現在では、ほかのオンライン・メディアと比べても高い評価を頂けるようになりました。
「オープン・コミュニケーション」を大切に
――2008年の創業から、会社の規模が大きくなるにつれてオフィス環境も変わってきたのではないかと思いますが?
村樫:創業時はメンバーが4~5人しかおらず、品川のマンションの一室で仕事をしていました。その後、赤坂に移転し、SPEEDAを採用して頂けるお客さまが増え、従業員数も20名ほどに増えてきたので外苑前に移転しました。従業員が50名を超えたタイミングで、外苑前の別のオフィスに再度移り、2014年12月に、従業員が100名ほどになった段階で現在の恵比寿オフィスに移転しました。
――新しい恵比寿オフィスを作るときに、特に意識したことはありますか?
村樫:オフィスのデザインについては、創業時からデザインをお願いしているデザイン会社さんに今でも委託しています。大切にしていることは「オープン・コミュニケーション」です。
当社のオフィスには、ご覧の通り一切仕切りがございません。これは従業員みんなが自由にコミュニケーションを取れるようにと配慮したからです。従業員同士が自由にコミュニケーションを取るということ、つまり「オープン・コミュニケーション」は、私たちがとても大切にしていることなのです。仕切りを作らないという点は移転前のオフィスも同じで、ビジネスサイドとエンジニアの間にガラスの仕切りがあるだけでした。
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ユーザベースのオフィス。執務スペースや会議室の壁がガラスになっていて、良く見通せる。
ほかにもコミュニケーションを活性化させるような場所があります。従業員が「フリースペース」と呼ぶ、みんなが座って集まれるスペースです。これは、社員から出てきたアイデアを形にしたものです。
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従業員みんなが座って集まれる「フリースペース」。
また、チームによりますが、オフィスでは基本的にフリー・アドレス制としています。さらに、クッションを置いてリラックスできるスペースや、コーヒー・スペースなど、コミュニケーションを取るきっかけとなる場所を設けています。
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会議室の中に入ってみたところ。壁がガラスになっているので、エントランスも見通せる。
責任を果たすことを前提に自由を認める
――従業員同士がコミュニケーションを取ることを大切にしているんですね。その他にユーザベースさんの特長となる制度などはありますか?
当社は働き方についてはかなり自由がきくようになっており、リモートワークができる環境も整えています。オフィスとは離れた場所で働きながら、ほかの従業員とコミュニケーションを取れる環境を利用できるのです。
実は私は現在名古屋に住んでまして、仕事は基本的に自宅からリモートワークしています。昨年、夫の都合で名古屋に引っ越しました。そのときに仕事を辞めることも考えましたが、元々働く環境のルールはなかったため、リモートで当社で働ける道を模索しました。イベントに参加するなど東京にいる必要がある場合、東京のオフィスに出社し、それ以外は名古屋でリモートワークを続けています。
当社で、リモートワークで働いているメンバーは私が初めてです。かれこれ1年経ちます。名古屋からリモートワークで働くことになった当初は、何かあった時会社にすぐに駆けつけることができなくなるため、きちんと責任を果たせるのかということや、お客さまとのコミュニケーション、社内とのコミュニケーションがきちんと取れるのか不安に思いました。しかし、周囲の皆さんがリモートワークで働くということについて理解し、また応援してくれました。コミュニケーションを取るという課題についても、電話やスカイプを活用することで、不自由なく仕事ができています。
ただ、人事という仕事では、従業員の状況やオフィスの雰囲気を把握していることが大切だと考えています。この点は、リモートワークでは解決できていません。しかし、今後はオフィスの各テーブルにモニターとカメラを置いて、メンバーの顔を見て、気軽にコミュニケーションが取れる環境を作れればいいなと考えてます。
現在のところ当社では、リモートワーカーは私だけですが、ほかの社員も、仕事をする場所は自由に選べるようになっています。人によって集中できる場所は異なります。例えば、ある人はオフィスにいないと集中して仕事ができないというかもしれませんが、カフェや図書館の方が集中できるという人もいます。
当社で大切にしている「7つのルール」というバリューの1つである「自由主義でいこう」に象徴されている通り、自由を大切にしていますが、自由は責任を果たすことが出来て初めて実現します。その責任は、チームのミッションであり、それぞれのお客さまにサービスを滞りなく提供することです。それができるのならば、チーム内で個々人の働き方を自由に変えても良いということです。
会社では従業員が全員、自分自身が経営者であると考えて行動することを求めています。責任を持って、どうやってリーダーシップを発揮し、結果を出していくかを考えるメンバーが多くいればいるほど、チームとしての生産性が上がり、大きな成果を挙げられると信じています。
――バリューの「7つのルール」を大切にする社風を浸透させるための取り組みなどはありますか?
当社では年に1回、「Think Beyond Meeting」という全社員出席必須の新規ビジネスアイディアミーティングを開催しています。このイベントは、新たなビジネスを社員が発表しあうもので、会社が目指す大きな目標を皆で確認し合いワクワクするような場ともなっています。また、皆がユーザベースという企業に対してどういう思いを抱いているのか、世界一の経済メディアになるために、皆がどういうことを考えているのかといったことを確認する場にもなっています。
もう1つ、これも年1回ですが、「Year End Party」という、皆に感謝するパーティを開催しています。社員の頑張りに対して感謝の意を示すことはもちろん、社員を支えたくれた家族に感謝する場にもなっています。
毎年Year End Partyでは、その年に成果を残した社員を表彰しています。最も大きな成果を残したMVPを表彰するだけでなく、その年に最も自由な働き方をしたメンバーや、最もユーザーの理想を追求したメンバーなど、ユーザベースのバリューを体現した社員の表彰もしています。
Think Beyond MeetingとYear End Partyの2つが会社公認の大きなイベントで、そのほかに花見や、ハロウィンなど非公式なイベントがいろいろあります。このようなイベントで社員同士がコミュニケーションを取ることで、会社の文化が浸透していると思います。
ただ一方で、会社が大切にするバリューを伝える研修のようなものも必要だと思っています。どういった内容が効果的なのか、考えなければならないことはありますが、早々に着手したいですね。
従業員それぞれが会社のビジョンやバリューを理解し、自らの言葉で語れるようになると、強い組織になると思っています。自らが目指す道、それをユーザベースで一緒に働く仲間と実現する理由が明確になることで、想像もできない高いパフォーマンスを発揮すると信じているからです。
組織がそのように成長すると、業務のスピード感も上がると思いますし、生産性を高く維持しながら事業を展開できると考えています。何より、高い志を持つメンバーと仕事するのは楽しいことです。
海外展開を積極的に進めたい
――話題を変えさせて下さい。人材採用時はどのような点に注意していますか?
「自分の意志を強く持っている」こと、そして私たちのバリューに合っているかが最も大切です。会社に入ってから自分が何をしたいか、どうなりたいのか、といったことは会社が用意してくれるものではありません。自分で切り開いていくものだと思います。だからこそ、特に新卒の学生には、ユーザベースに入って何をしたいのか、どういう人間になりたいのか、ということを強く問うようにしています。中途採用の場合は「自分の意思」に加えて、もちろん専門スキルも見ます。
しかし、高いスキルを持ち、意志も強くある人でもバリューが合わないと判断すれば採用しません。バリューは私たちが最も大切にする価値観であり、これが合わないと当社の文化、つまり組織を壊す要因になり、強い組織は作れないからです。
――最後に、今後の事業についてどのようなビジョンをお持ちですか?
当社はすでに、シンガポール、上海、香港に進出しており、それぞれの拠点でSPEEDAを提供しています。今後は海外進出をさらに進めて、海外での売り上げを伸ばしていきたいと考えています。
当社は世界一を目指しています。いずれは欧州や北米にも進出し、SPEEDAを現地の企業さまに利用してもらえるようにしていきたいですね。
NewsPicksについては2013年にサービスを開始してから、収益を上げるためにいろいろ試行錯誤してきました。現在は、有料会員の皆さまからの収入と、「ブランドコンテンツ」という広告による収益の2つの軸で、しっかり事業の基盤を作っていく段階になります。2016年に、どう大きく成長していくかご期待ください。