VRの普及に立ちふさがる、13歳未満のVR体験を制限する「13歳問題」とは

筆者:手島 理志

 
「13歳問題」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。あまり馴染みのない言葉ですが、ビジネスでVRに触れる機会がある人は耳にしたことがあるかもしれません。簡単に言えば、13歳未満の子どものHMD・VRゴーグル使用が非推奨されていることです。国内で主に購入可能なHMD・VRゴーグルのメーカーは、対象年齢を13歳以上と定めているところがほとんどです。
 
しかし、なぜ13際未満のHMD・VRゴーグルの使用が非推奨されているのでしょうか?本記事ではその理由と、13際未満の子どもたちでもVR体験をするための方法を紹介します。
 

「13歳問題」とは?


 
「13歳問題」とは、13歳未満の子どもの二眼HMD・VRゴーグル使用が非推奨されている現状のことです。
 
VRを体験する際に用いられるHMD(ヘッドマウントディスプレイ)やVRゴーグルといったビューアの数々。大きく2つに分けるとレンズが1枚の1眼と、レンズが2枚の二眼に分かれます。このうち13歳未満の子どもの使用が非推奨されているのは二眼のHMD・VRゴーグルです。
 
国内で購入できる主なHMD・VRゴーグルの対象年齢は以下のようになっています。

Oculus Rift : 13歳以上
HTC Vive : 13歳以上推奨
Playstation VR : 12歳以上
Gear VR : 13歳以上
ハコスコ<二眼> : 二眼は7歳以上

イベントやアトラクションなどで使用されることの多い機種は、概ね12・13歳以上の使用を対象としていることがわかります。
 
なぜこのように13歳未満の使用が非推奨されているのでしょうか?それは、医学的見地からの規制と、COPPA(児童プライバシー保護法)による影響の2つの理由があると言われています。以下よりそれら2つをそれぞれ説明します。

医学的見地からの規制

13歳未満の子どもに二眼HMD・VRゴーグルの規制がかかっている大きな理由の1つとしてあげられるのが、医学的見地から見たリスクです。通常のものの見え方と違う二眼のHMD・VRゴーグルを使うことによって、身体的に未発達な子どもに悪影響を及ぼす可能性があるというものです。

特に「立体視細胞の形成」と「瞳孔間距離の増加」という2つの観点において無視できない影響を及ぼす可能性があります。大阪大学医学部付属病院で小児眼科・神経眼科を専門としている不二門尚氏が行った講演の内容をもとに、それぞれ説明していこうと思います。

立体視細胞の形成


そもそも物が立体的に見える仕組みをご存知でしょうか?人間の脳には立体視細胞と呼ばれる細胞があり、その細胞内で左右の眼から得た情報を組み合わせることで物が立体的に見えるようになるのです。この立体視細胞は6歳くらいまでに発達すると言われており、ハコスコの年齢制限などもそれに合わせて7歳からになっているようです。

実際に奥行きのあるものを見るときとは違い、二眼HMD・VRゴーグルは左右の眼から同じ距離のモニターで、左右で違う映像を見せることで擬似的な立体視を生みます。

▼通常の立体視▼

(画像参照元:富士通研究所

▼HMD・VRゴーグルでの立体視▼

(画像参照元:SONY)

普段とは違うやり方で立体視することで、実際のものの見え方に誤差からくる矛盾が生まれ、眼には大きな負担になるのです。大人であれば疲れるくらいで済みますが、発達途中の子どもにとっては斜視になる危険性や立体視細胞の形成を阻む危険性があります。

瞳孔間距離の増加


立体視細胞の形成という観点だけで言うのなら7歳以上の子どもは二眼HMD・VRゴーグルの使用が可能かもしれません。ですがもう1つリスクとして挙げられているのは、左右の黒目の距離である瞳孔間距離の増加に伴う空間認知の矛盾です。

子どもは成長とともに頭蓋が大きくなっていき、瞳孔間距離も短い期間で変化していきます。10歳前後まで瞳孔間距離は増加していくと言われており、その間にうまく成長に合わせてHMDやVRゴーグルの調整ができないまま使用すると、そのずれが空間を認知する能力に悪影響を及ぼすとのことです。

このように、身体的に未成熟な年齢の眼に悪影響を及ぼす可能性があることが13歳未満の二眼HMD・VRゴーグル使用非推奨の原因の1つだと言われています。

COPPA(児童プライバシー保護法)による影響

もう1つ理由として挙げられることがあるのは、COPPA(児童プライバシー保護法)というアメリカの法律です。これは2000年にアメリカで施行された法律で、子どもたちのインターネット上での安全を守るために存在しています。
 

【COPPAとは】
COPPAとは「Children’s Online Privacy Protection Act」の通称であり、アメリカの連邦取引委員会により定められた法律です。13歳未満の子どもがインターネット上で危ない目に遭わないために設置された法律であり、サイト運営者に対して以下のように義務付けています。
 
12歳以下の子供の個人情報を収集する場合
・サイト運営者は個人情報を収集する前に親の同意を得なくてはならない
・第三者への開示が出来るか選択肢を付けなくてはならない

 
HTC Viveを開発したValve社が運営しており、VRゲームを配信することもできる「Steam」は13歳以上でないとアカウントを作ることができません。またFacebook傘下のOculusもアカウントを作成するときに13歳以上である必要があります。これはCOPPAの影響によるものだと思われ、この流れを汲んで各種HMD・VRゴーグルは13歳未満には使用を非推奨していると言われています。

「13歳問題」を解決するために

以上の理由などから「13歳問題」が存在します。この問題がVRの市場に与える影響は、家族連れで同じコンテンツを体験できない、教育・医療の分野でのVR使用に制限がかかるなどといった事態を引き起こし、日本でのVRの普及に待ったをかけています。

ただ実際のところ、医学的な危険性においてもしっかりとした検証が行われているわけではなく、年齢にも明確な基準があるわけではありません。加えて海外のVR展示場などでは13歳未満の子どもが二眼のHMD・VRゴーグルを使用している例も見られ、必ずしも対象年齢の区分を厳守しているわけではないようです。

そういった曖昧な状況を打破するために、日本でも「13歳問題」を研究・解決していく団体が発足しました。

一般社団法人ロケーションベースVR協会

2017年7月に発足を発表した「一般社団法人ロケーションベースVR協会」は、株式会社ハシラスの安藤晃弘氏が代表理事を勤め、株式会社バンダイナムコエンターテインメントや株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントなどの日本においてロケーションベースVRの運営に関わっているメインプレイヤーが集まりVRに関する課題に対してアプローチする団体です。

本団体は「13歳問題」に関しても研究・解決を目指していくことを発表しており、正しい根拠と検証に基づいてHMD・VRゴーグルの最適な使用方法を選択できるようにすることでVRの普及を狙います。

まとめ

子どもたちの安全を守り、成長を育むためにも、適切な基準に則ったボーダーラインの存在が求められています。最適な基準を設けるためには、制限のかかる理由に対してしっかりとした根拠を見出し、検証や実験を行うことが必要です。今後業界のさらなる進歩を促すためにも、安全面や身体的な面での正しい付き合い方が明確な基準として設定されていくはずです。

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